CFOのためのグローバル経営:ガバナンス強化戦略

CFOのためのグローバル経営:ガバナンス強化戦略
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はじめに

2025年、日本企業の海外展開は新たな局面を迎えています。グローバル経済の不確実性が高まり、海外子会社管理の重要性がこれまで以上に増しています。本コラムでは、CFOの視点からグローバル経営におけるガバナンス強化の戦略について解説します。

海外展開の現状と課題

国内市場の成熟化が進む中、企業にとって海外展開は、成長戦略の重要な柱となりつつあります。かつては、大企業のみが挑む領域と考えられていたグローバル市場ですが、近年、独自の技術やニッチな市場での強みを武器に、新たな顧客層を開拓し、収益拡大を目指す企業が増えています。

しかし、海外展開は単なる事業拡大ではありません。政治・経済情勢の変動、為替リスク、文化や商習慣の違いなど、国内とは異なる数々の課題に直面します。特に、リソースが限られる企業にとって、これらのリスクを適切に管理し、持続的な成長を実現するためには、周到な準備と戦略が不可欠です。

ガバナンス強化の重要性

グローバル経営において、「海外子会社の実態が見えない」という問題は依然として多くの企業が直面している課題です。この問題を解決するためには、親会社と海外子会社の双方にガバナンス強化が必要です。

ガバナンス・フレームワーク

CFOが推進する効果的なガバナンスを構築するために、以下のガバナンス・フレームワークを参考に要素別に取り組みを実行していくことが有効的です。

  1. 経営理念の共有
  2. 経営戦略とリスク管理
  3. 組織構造の最適化
  4. 業務・オペレーションの確立
  5. モニタリング体制の構築とPDCAの実現

本コラムでは、特に「経営理念の共有」に焦点を当て、各社が工夫した取り組みを紹 介します。

経営理念の共有の重要性

経営理念とは、企業の存在意義や価値観を明確に示したものであり、従業員一人ひとりの行動指針となるものです。だからこそ、海外展開を成功させるためには、単に規程やプロセスを押し付けるのではなく、経営理念を共有し、従業員一人ひとりに浸透させることが重要となります。CFOは財務の専門家としてだけでなく、経営理念の浸透においても重要な役割を果たす必要があります。
では、具体的にどのように経営理念を浸透させれば良いのでしょうか? 以下に、2つの効果的な取り組みを紹介します。

取り組み例①:グローバルミーティングの開催

グローバルに展開している、ある製造業の会社では、世界各地の子会社のCEOやCFOが一堂に会し、経営理念を再確認し、価値観を共有する機会を設けていました。

効果

  • CEOより経営理念に関するメッセージを発信し、企業理解を深める
  • 来期に向けた取り組みをマネジメント同士で会話することで相互理解する
  • 経営の中核として経営理念を扱い、共通の価値観を醸成

取り組み例②:経営理念の可視化

新興国に進出する企業では、オフィスにポスターを掲示するなど、経営理念を目に見える形で表現することで、日々の業務の中で意識づけを行っていました。

効果

  • 日々目に触れることによる現地へのCSR活動の啓蒙
  • 経営理念の伝達

経営理念は、グローバル経営の羅針盤です。全従業員が同じ方向を向き、一体感を持ちながら仕事に取り組むことで、持続的な成長を遂げることができるでしょう。

さいごに

昨今のグローバル経営において、CFOは単なる財務の専門家ではなく、経営理念の浸透とガバナンス強化の要となる存在です。経営理念を軸としたガバナンス・フレームワークの構築と実践により、海外子会社の「見える化」を実現し、グループ全体の企業価値向上に貢献することが求められています。

CFOの皆様には、財務の専門性を活かしつつ、経営理念の浸透とガバナンス強化の両面でリーダーシップを発揮することが期待されています。グローバル経営の複雑性が増す中、この役割の重要性はますます高まっていくでしょう。

この記事を書いた人

2004年有限責任監査法人トーマツ入社。シニアマネジャーとして、多くのグローバル企業の監査責任者を担当するとともに、IFRS導入、オペレーション改善等アドバイザリー業務の現場責任者を歴任。2022年当社入社。経理業務の高度化に向けた標準化支援や、ERPシステム導入支援、IPO支援、BPOサービスといった案件やROICや海外子会社管理のセミナー講師等を担当。2024年よりAccounting Tech 1部の部長職。

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