海外子会社管理改革:決算早期化と情報アクセス向上戦略

海外子会社管理改革:決算早期化と情報アクセス向上戦略
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はじめに

2025年現在、グローバル経営の複雑性が増す中、「海外子会社の実態が見えない」という課題は多くのCFOが直面している問題です。本コラムでは、この課題の解決に向けた具体的な戦略として、決算早期化と子会社の詳細情報へのアクセス向上に焦点を当てます。

 海外子会社の実態が見えない要因

海外子会社の実態が見えにくい主な要因は以下の3点に集約されます。

  1. タイムリーな情報入手の困難さ
  2. 詳細情報へのアクセス不足
  3. 入手情報の正確性の欠如

これらの問題は、グローバル経営の効率性と透明性を著しく低下させる要因となっています。

 親会社が取るべき初期対応

問題の具体的な解決策を検討する前に、親会社としてやるべきことができているかを確認しましょう。確認すべき点は以下の3点です。

モニタリング情報の特定:実態把握の第一歩

経営戦略の進捗状況をモニタリングするための情報(財務情報・非財務情報)を適切に識別し、海外子会社に定期的な報告を求めることが重要です。これらの情報が曖昧なままでは、子会社の実態を把握することはできません。まず、予算や経営戦略の詳細を把握するところから始め、KPIを設定し、定期的なモニタリング体制を構築しましょう。

レポートラインとコミュニケーションプランの明確化:連携強化の要

海外子会社の管理は、通常、複数の部門が関与するため、親会社・子会社間での職能別・機能別のレポートラインを明確化しておくことが重要です。また、親会社内での情報共有ルートを確立し、スムーズな連携体制を構築することも必要です。さらに、年間スケジュールを事前に共有することで、計画的なコミュニケーションを促進することができます。

グループ方針の明確化:統制と自律のバランス

子会社が守るべきルールや職務分掌をグループ方針として明確化し、事前に子会社に展開しましょう。特に、新たに買収した子会社の場合、本社が求める管理レベルとのギャップが生じやすい点に注意が必要です。達成すべき水準を明確に示し、継続的なモニタリングを通じて改善を促すことが重要です。

決算早期化の具体的戦略

前章で述べた親会社側の対応を適切に行ったとしても、海外子会社のシステムや業務オペレーション、人員不足などが原因で、課題解決に至らないケースは少なくありません。そのような場合には、海外子会社の業務プロセスそのものを変革する必要があります。本章では、具体的な解決策として、子会社決算の早期化と親会社とのデータ連携について解説します。

子会社決算の早期化:3つのポイント

タイムリーな情報入手を実現するために、子会社決算の早期化は重要な課題です。早期化を実現するためのポイントは以下の3点です。

ポイント1:決算業務の一覧化によるボトルネックの特定

まず、決算業務を洗い出し、各業務の目標締め日を明確化します。その上で、現状の業務フローと目標締め日を比較し、ボトルネックとなる工程を特定します。ボトルネックは、「情報の収集が間に合わない」または「入手した情報に基づく処理が間に合わない」のいずれかに分類できます。

ポイント2:見込み計上を含むルールの変更の可否の検討

外部からの請求書の到着遅延などがボトルネックとなっている場合は、費用の見込み計上など、会計処理のルール変更を検討することも有効です。ただし、見込み計上額と実際の請求額との差異を事後に検証する必要があります。

ポイント3:業務の可視化と属人的な業務の排除

処理プロセスがボトルネックとなっている場合は、個別業務を可視化し、属人的な業務を特定します。その上で、業務の分散化やシステム化など、業務の再設計を行いましょう。

親会社と子会社とのデータ連携:2層ERPの導入

海外子会社の管理を難しくする要因の一つに、親会社と子会社間での情報格差があります。この課題を解決し、親会社と子会社が同じ目線で情報共有できる環境を構築するために、2層ERPの導入が有効です。

2層ERPとは、親会社と子会社が同一のクラウド型ERPシステムを使用することで、データ連携を強化する仕組みです。これにより、親会社から子会社の詳細情報にアクセス・閲覧できるようになり、以下のメリットが期待できます。

  • 子会社の詳細情報の把握:ドリルダウン機能により、必要な情報を容易に取得できます。
  • 親会社によるチェックの効率化:子会社の経理処理をリアルタイムで確認し、指導・監査を効率的に行えます。
  • 連結決算の早期化:期中の内部取引の照合や増減分析を効率化し、連結決算業務全体をスピードアップできます。

2層ERPの導入は、海外子会社の「見える化」を促進し、グループ全体のガバナンス強化に大きく貢献するでしょう。もちろん、2層ERPだけでなく、同一ERPの使用やデータ連携による対応も可能です。各社の状況に合わせて、コストとスピードを考慮した最適なシステムを選択することが重要です。

さいごに

海外子会社管理の変革は、グローバル経営における成功の鍵を握ります。決算早期化とリアルタイムな情報アクセスにより、CFOはグループ全体の透明性と効率性を飛躍的に向上させることができます。
目まぐるしく変化するグローバル環境において、テクノロジーを戦略的に活用することは、もはや選択肢ではありません。CFOはテクノロジーを駆使しながら、組織の変革を牽引することで、単なる財務責任者から、真の戦略的パートナーへと進化することができるでしょう。

この記事を書いた人

2004年有限責任監査法人トーマツ入社。シニアマネジャーとして、多くのグローバル企業の監査責任者を担当するとともに、IFRS導入、オペレーション改善等アドバイザリー業務の現場責任者を歴任。2022年当社入社。経理業務の高度化に向けた標準化支援や、ERPシステム導入支援、IPO支援、BPOサービスといった案件やROICや海外子会社管理のセミナー講師等を担当。2024年よりAccounting Tech 1部の部長職。

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