はじめに
2025年現在、日本企業のグローバル展開は新たな局面を迎えています。デジタル技術の進化により、中小企業やスタートアップの海外進出が加速し、従来の大企業中心のグローバル化とは異なる様相を呈しています。このような環境下で、CFOには海外子会社の効果的な管理と、グループ全体の価値向上が求められています。しかし、海外子会社の株式を過半数取得し、経営権を握ったにもかかわらず、その実態が掴めずに苦慮する企業は少なくありません。海外子会社の管理を適切に行うためには、ガバナンス・フレームワークに基づいた組織設計が不可欠です。
本コラムでは、海外子会社の組織設計と権限委譲の範囲に焦点を当て、CFOが直面する課題と最新のベストプラクティスについて解説します。
海外子会社の組織設計:主要役員の選任
海外子会社の組織設計は、その機能によって大きく異なります。例えば、製造子会社であれば、日本人駐在員をCEOに据えることが有効な場合もあります。しかし、製造、販売、物流など広範囲な機能を担う子会社の場合、現地事情に精通した人材をCEOに登用しなければ、期待する成果は得られにくいでしょう。CFOは、各子会社の特性を考慮しつつ、適切な人材配置を行う必要があります。
事例:契約によるコントロール
欧米企業では、下記のような取り組みが一般的です。
- CEOを含む主要役員との詳細な雇用契約の締結
- パフォーマンス指標(KPI)の明確化
- 解雇条件の明文化
これにより、企業と従業員の期待ギャップを最小限に抑え、透明性の高い経営を実現する有効な手段です。
事例:本社人材の戦略的派遣
海外子会社の経営実態が掴みにくい場合、本社人材の戦略的な派遣は有効な手段となります。さらに、本社人材をCFOとして派遣し、現地財務チームとの協働体制を構築することで、経営状況の可視化と本社との情報共有を活性化させることができます。これにより、グループ全体の財務戦略の一貫性が向上し、より効果的なグローバル経営が実現します。
権限委譲の範囲と決裁権限規程の設計
CFOは、子会社の自律性と本社のコントロールのバランスを取るため、適切な権限委譲の範囲を設定する必要があります。海外子会社の活動範囲をどこまで認めるかは、権限委譲の重要なポイントです。本社が留保する権限と子会社に委譲する権限を明確にするために、以下の決裁権限規程を運用することが有効です。
決裁権限規程の基本構造
親会社の事前承認が必要な事項
- 定款変更、決算期の変更
- 合併、会社分割、重要な資産の譲渡
- 年度予算・中期経営計画の承認
- 一定金額以上の投資案件
子会社取締役会の決議事項
- 年間事業計画の策定
- 一定金額範囲内の投資案件
- 重要な人事異動
子会社CEOの決定事項
- 日常的な業務執行
- 一定金額以下の経費支出
親会社への報告事項
- 月次財務報告
- 重要なリスク事象の発生
- 現地法令の重要な変更
さいごに
組織設計と権限委譲は、海外子会社の「見える化」と自律的な事業運営を両立させるための鍵となります。適切な組織設計により、本社は海外子会社を効果的に管理し、グローバルな事業展開を成功に導くことができるでしょう。