CFO必見!経理・財務部門の生産性改革で企業価値を最大化する戦略

CFO必見!経理部門の生産性改革で企業価値を最大化する戦略
目次

はじめに

近年、経理・財務部門を取り巻く環境は大きく変化しており、CFOの皆様は、部門の生産性向上と戦略的な役割への転換という二つの大きな課題に直面しています。本稿では、経理・財務部門がこれらの課題を克服し、企業価値の最大化に貢献するための具体的な戦略と、CFOが果たすべき役割について解説します。

経理・財務部門を取り巻く環境変化とCFOの役割

かつて、経理・財務部門は主に過去の財務データを記録・管理する「守り」の役割を担っていました。しかし、現代のビジネス環境は、以下の要因により大きく変化しています。

  • テレワークの普及
    働き方の多様化に対応するため、経理・財務部門にも柔軟な対応が求められています。
  • 労働人口の減少
    経理人材の確保が困難になる中、効率的な業務運営が不可欠です。
  • テクノロジーの進化
    AIやRPAなどの技術を活用し、業務を高度化するチャンスが広がっています。
  • 経済環境の不確実性への対応
    変化に迅速に対応し、将来予測に資する情報提供が重要になっています。

これらの変化に対応するため、CFOには、経理・財務部門を「守り」から「攻め」へと転換させ、企業価値の向上に貢献させるという重要な役割が求められています。

経理・財務部門の生産性改革に向けたステップ

CFOが主導して経理・財務部門の生産性を改革していくためには、以下のステップを踏むことが重要です。

目的の設定

何のために業務効率化・標準化を行うのか、具体的な目標を設定し、経営層と合意します。例えば、「経理・財務部門の業務時間を30%削減し、戦略業務へシフトする」といった目標が考えられます。

現状把握・問題点の可視化

現状業務の把握

経理・財務部門の生産性改革においては、現状業務の把握が不可欠です。業務の可視化のために、年間・月間業務スケジュール、業務フロー、業務一覧、業務別資料一覧などを作成し、業務全体を棚卸しします。業務スケジュールからは業務の全体像を、業務フローからは作業手順や効率を妨げる要因を、業務一覧からは業務の依存度や適切さを把握します。

問題点の把握・課題一覧の作成

現状業務を可視化する過程で、業務の問題点が明らかになるため、業務を棚卸しながら問題点の一覧を作成します。業務の問題点を洗い出す際には、担当者の視点だけでなく、管理者(マネジメント)の視点も含めて検討することが重要です。
担当者視点では、効率性や標準化に課題があると考えられる業務でも、管理者視点では実施頻度の低さなどから改善効果が限定的と判断される場合があります。管理者の視点では、業務ルールの変更を伴うもの、特定の担当者に依存しているもの、年間の総工数が多いものなどが、優先度の高い問題として位置づけられます。

現状把握の際のポイント

業務の現状を把握する際には、以下の点に留意することで、効率的かつ効果的に実態を把握することができます。

  • 時系列に沿った確認
  • 作成資料から逆算して確認(バックキャスティング)
  • 大まかな流れを把握してから詳細を把握
  • 詳細把握は資料・画面を一緒に確認しながら把握
  • 業務量を定量的に把握

課題の優先順位付け

当初設定した目的によって優先度は変わりますが、経理・財務部門の生産性改革をテーマにする際には、業務量削減、標準化による業務の外注化、決算早期化等が主なテーマとなります。以下に、これらのテーマを前提とした課題の優先順位付けのポイントを紹介します。

  • 年間の総時間が多い業務
    1件当たりの処理があまり多くなくても毎日発生するような業務について、改善余地のある場合には優先的に取り組むことが必要です。
  • 特定の個人が長く同じ業務を実施
    暗黙知でのルールが複数存在し、引き継ごうとすると品質を維持できないような業務は、多くの場合、マニュアル化による形式知とするだけでなく、業務手順の見直しが必要となります。
  • 改善施策が経理・財務部門で完結し得る
    改善の実行によって早期に効果を出すという観点からは、実行を進めやすい経理・財務部門内のみで完結するような施策をまずは実施していくことも有益と考えられます。

生産性改革を成功に導くための具体的施策

CFOは、以下の施策を組み合わせることで、経理・財務部門の生産性を向上させ、戦略的な役割への転換を加速させることができます。

システム導入による業務効率化

経理・財務部門の生産性を高めるためには、システムの導入が有効な手段となります。それぞれのシステムがもたらす効果と、導入にあたっての留意点を以下に示します。

  • 経費精算・ワークフローシステム
    申請不備の自動チェックや承認プロセスの効率化により、経理・財務部門の負荷を軽減します。導入にあたっては、システムの機能が自社のニーズに合致しているか、既存システムとの連携は可能か、導入後のサポート体制はどうかなどを十分に検討する必要があります。
  • 連結会計システム
    グループ企業の増加に伴い、連結業務が煩雑化している場合は、連結会計システムの導入・機能の拡充が有効です。システム導入の効果を最大化するためには、導入前の業務整理や標準化が重要です。また、導入後の運用体制や教育計画も合わせて検討する必要があります。
  • ERP(Enterprise Resource Planning)システム
    企業の基幹業務を統合的に管理するERPシステムは、経理業務の効率化だけでなく、経営全体の最適化に貢献します。ERPシステムの導入は、企業全体の業務プロセス改革につながる大規模なプロジェクトとなるため、経営層のコミットメントと十分な準備が不可欠です。導入後の効果測定と継続的な改善も重要となります。

業務リソース配分方法の変更

これらの業務リソース配分方法の変更は、システムの導入だけでは解決できない課題に対応するために重要です。システムは定型的・反復的な業務には有効ですが、複雑な手作業や判断を伴う業務には限界があります。業務リソースの最適な配分によって、システムと人の強みを最大限に活かし、経理・財務部門全体の生産性を向上させることが可能になります

  • 業務の分業化・並列化
    チェックリストの作成などを通して業務を可視化し、分業化や並列化を推進します。CFOは、高度な業務と定型業務を切り分け、適切な人材配置を行う必要があります。
  • 月次決算業務の簡素化
    業務の目的を再確認し、不要な業務を削減したり、業務サイクルを見直したりすることで、経理・財務部門の負荷を軽減します。CFOは、業務の見直しを指示し、その効果を検証することが重要です。
  • グループ会社間の業務統一
    システム化する業務に限らず、引当金算定などの経理特有の決算整理業務においても、計算ロジックをグループ会社間で統一することで、同じ計算テンプレートを用いることが可能となり、業務を集約化したり、アウトソーシングしたりできるようになります。CFOは、グループ全体最適の視点から、業務標準化を推進することが求められます。

さいごに

経理・財務部門は、企業の成長と変化に合わせて「素早く」変革し続ける必要があります。CFOは、本稿で紹介した戦略と施策を参考に、経理・財務部門の生産性を向上させ、より戦略的な役割を担えるよう、リーダーシップを発揮することが期待されます。

この記事を書いた人

2005年 有限責任監査法人トーマツ入所。現東証プライム上場企業をはじめ、幅広い業種・規模の企業に対する法定監査業務、内部統制監査制度の導入支援業務、IFRS導入支援業務に従事。2017年より部長職。経理財務部門における生産性向上を実現するAccounting Tech®Solution事業を推進し、2020年 Strategy & Operations事業部 事業部長に就任。上場企業向けに、経営管理体制構築支援、経理財務部門における生産性向上の支援、PMI(Post Merger Integration)プロジェクトの支援、経理BPOサービスなど、多くの案件を手がけるほか、専門誌の執筆やセミナー講師を多数実施。

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