グローバル経営戦略とリスク管理:本社と子会社の最適な役割分担

CFOのためのグローバル経営戦略とリスク管理:本社と子会社の最適な役割分担
目次

はじめに

グローバル経営において、本社と海外子会社の適切な役割分担は企業価値の向上に不可欠です。本コラムでは、CFOの視点から経営戦略とリスク管理における本社と子会社の役割、そして効果的なモニタリング手法について解説します。

グローバル経営の現状と課題

かつては一部の大企業に限られていたグローバル経営も、今や中堅・中小企業、そしてスタートアップに至るまで、多くの企業が世界を舞台にビジネスを展開する時代となりました。しかし、その道は決して平坦ではありません。地政学的なリスク、サプライチェーンの混乱、各国の複雑な法規制、そして多様化する消費者ニーズ。グローバル経営は、まさに予測不能な荒波を航海するようなものとなっています。
このような環境下で、CFOには以下の役割が期待されています。

  • グローバル市場への進出を見据えた経営管理体制の構築
  • 現地法制度のリスクマネジメント体制
  • 海外からの資金調達を見据えた市場との対話

経営戦略とリスク管理における役割分担

グローバル経営を成功に導くためには、本社と子会社がそれぞれの役割を明確にし、連携を強化することが不可欠です。

本社の役割

本社は、グループ全体の羅針盤として、統一された経営戦略とリスク管理体制を構築します。グループ全体を俯瞰できる唯一の存在として、以下の役割を担います。

  • グループ全体の経営戦略の策定
  • グローバルリスク管理フレームワークの設計
  • 経営資源の最適配分

子会社の役割

子会社は、現地の最前線として、本社の戦略を具体的に実行します。現地の市場や法規制に精通した子会社は、以下の役割を担います。

  • 現地市場に適した戦略の具体化と実行
  • 本社の定めたリスク管理フレームワークに基づく現地リスクの特定と対応
  • 定期的な本社への進捗報告とコミュニケーション

効果的なモニタリング手法

海外子会社の経営状況を正確に把握することは、グローバル経営における最重要課題の一つです。「海外子会社の実態が見えない」状態に陥らないためにも、積極的なモニタリング体制の構築が必要です。以下に、具体的な事例を交えながら、効果的なモニタリング手法を紹介します。

経営戦略の進捗状況のモニタリング

「海外子会社の実態が見えない」という問題は、多くの場合、業績管理のためのモニタリングが機能していないことに起因します。この課題を解決するためには、財務・非財務の両面からKPIを設定し、多角的な視点から経営戦略の進捗状況を把握することが重要です。さらに、子会社との定期的な対話を通じて信頼関係を構築することで、問題の早期発見・解決を促進し、より緊密な連携体制を築くことができます。

事例:グローバル製造業の取り組み

ある製造業では、以下のような取り組みを実施しています。

  • 統一された業績報告フォーマットの導入
  • 隔週での予算進捗とKPI達成状況の報告
  • CFOによる各国CEO・CFOとの定期的な対話

この取り組みにより、本社は各拠点の成功事例や課題、独自の戦略や工夫といったナレッジを蓄積し、 グループ全体で共有・活用することで、持続的な成長を促進しています。

リスクマネジメントの高度化

グローバル展開が進む現代において、リスクマネジメントは企業の持続的成長を支える重要な柱です。しかし、多様なリスクが複雑に絡み合うグローバル環境下では、従来のリスク管理手法では十分とは言えません。「全社的なリスク状況の把握が難しい」「各拠点の独自判断に任せてしまい、リスク管理の粒度がバラバラ」といった課題を抱える企業も少なくないでしょう。

こうした課題を解決するためには、本社主導で全社的なリスク管理体制を構築し、リスクの可視化と適切な対応策の実施が不可欠です。

グローバルリスクマネジメントフレームワーク

効果的なリスクマネジメントを実現するためには、以下の4つのステップを体系的に実行するフレームワークが必要です。

  1. リスクの識別
  2. リスクの重要性評価
  3. リスク対応方針の策定
  4. 対応方針の実行とモニタリング

リスク評価の3軸アプローチ

リスクの識別及び評価においては、以下の3つの軸を用いることで、より客観的な評価が可能になります。

  1. リスクの発生可能性
  2. リスクの発生時期(短期・長期)
  3. リスク発生時の影響度

これらの軸を事前に設定することで、子会社自身が適切なリスク識別・評価を行い、グループ経営に影響を与える重要リスクを特定できます。

リスクマネジメント委員会の設置

これらのプロセスは、グループ全体の横断的な取り組みであり、専門的な知識も必要となるため、特定の部署のみで対応することは困難です。そのため、リスクマネジメント委員会を設置することが効果的です。リスクマネジメント委員会は、全社的なリスク管理体制を推進する上で重要な役割を担い、具体的には以下の機能を実行します。

  • グループ全体のリスク情報の集約と分析
  • 重要リスクへの対応策の審議と決定
  • リスク対応状況のモニタリングと評価

事例:あるUK企業の取り組み

あるUK企業では、本社にリスクマネジメント委員会を設置し、以下の取り組みを行っています。

  • 全社共通のリスク管理基準を策定し、各拠点に展開
  • リスク評価の3軸アプローチを導入し、重要リスクを特定
  • 定期的にリスクマネジメント委員会を開催し、リスク対応状況をモニタリング

この取り組みにより、リスク管理レベルの向上、リスク情報の共有促進、リスク対応の迅速化を実現し、グローバル規模での安定的な事業運営を可能にしています。

このように、全社的なリスクマネジメント体制の構築と適切なリスク評価手法の導入により、企業はグローバル規模でのリスク管理を高度化し、持続的な成長を実現することができます。

さいごに

グローバル経営の複雑性が増す中、CFOの役割はますます重要になっています。本社と子会社の適切な役割分担、効果的なモニタリング手法の確立、そしてリスクマネジメントの高度化を通じて、グループ全体の企業価値向上に貢献することが求められています。
CFOの皆様には、財務の専門性を活かしつつ、戦略的思考とリーダーシップを発揮し、グローバル経営の舵取り役として活躍されることを期待しています。

この記事を書いた人

2004年有限責任監査法人トーマツ入社。シニアマネジャーとして、多くのグローバル企業の監査責任者を担当するとともに、IFRS導入、オペレーション改善等アドバイザリー業務の現場責任者を歴任。2022年当社入社。経理業務の高度化に向けた標準化支援や、ERPシステム導入支援、IPO支援、BPOサービスといった案件やROICや海外子会社管理のセミナー講師等を担当。2024年よりAccounting Tech 1部の部長職。

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