経理・財務DXを成功に導く3つのステップとは

経理・財務DXを成功に導く3つのステップとは
目次

はじめに

近年、経理・財務部門においては、人手不足や働き方改革への対応、そして企業を取り巻く経営環境の不確実性といった課題を解決するために、DXによる変革が求められています。しかし、DXは単なるIT導入ではなく、組織全体の変革を伴うため、CFOの戦略的なリーダーシップが求められます。本コラムでは、経理・財務部門におけるDXを成功に導くための具体的なステップと事例を解説します。

経理・財務部門におけるDXの必要性

従来の経理・財務部門は、決算業務や財務報告など、ルーティンワークに多くの時間を費やしてきました。しかし、DXの推進により、これらの業務を効率化し、より戦略的な業務に注力することが可能となります。具体的には、以下のような課題に対して効果が期待されます。

  • 人手不足・働き方改革への対応
    業務効率化、省力化により、労働生産性を向上させ、働き方改革を実現。
  • 経営環境の不確実性への対応
    デジタル技術を活用し、迅速かつ正確な経営情報を提供するとともに多軸分析によりAnalysisの深化により経営判断を支援。

これに加えて、インボイス制度や電子帳簿保存法改正など、経理・財務部門を取り巻く法規制の変化に対応するためには、DX推進が不可欠です。

経理・財務部門でDX実現に向けた3つのステップ

では、どのようにして経理・財務部門でDXを実現するのでしょうか。具体的には、以下のステップを踏むことが重要です。

1.情報のデジタル化:DXの基盤

まず、業務の入り口となる情報をデジタル化します。紙情報をデータ化することで、システムによる業務の自動化や効率化が可能になります。情報のデジタル化は、以下のフローで進めるとスムーズです。

  1. 目的の明確化
    デジタル化によって何を達成したいのか(業務効率化、決算早期化、コスト削減など)を具体的に定めます。目的を明確にすることで、実行計画の精度が高まります。
  2. 書類の棚卸し
    経理・財務部門に存在する書類(会計帳簿、決算関係書類、取引関係書類、稟議書、議事録など)を洗い出し、デジタル化の対象を特定します。書類の保管状況や運用理由(法令遵守、業務品質維持、商慣習など)も把握します。現在では電子帳簿保存法などの法整備が進み、多くの書類がデジタル化可能です。
  3. 書類の現状分析・優先順位付け
    デジタル化対象書類の効果と難易度を分析し、優先順位を決定します。書類の数量、保管場所、関連部署などを考慮し、目的達成に貢献度の高いものから着手します。
  4. デジタル化手法の検討
    関連法令、業務ルール、システム対応の3つの観点から、最適なデジタル化手法を検討します。法令で紙保管が義務付けられている書類は、法令に準拠した規定や業務ルールの変更、届出が必要な場合があります。

2.デジタル情報の活用:業務効率化と標準化

デジタル化された情報を活用し、業務効率化と標準化を推進します。具体的には、クラウド会計ソフトなどのクラウドサービスを活用した決算体制の構築が有効です。これにより、リアルタイムな情報共有や複数人での同時作業が可能となり、業務の透明性向上、作業の標準化による効率化、そしてペーパーレス化によるコスト削減といった効果が期待できます。
また、AIなどのテクノロジーを活用した定型業務の自動化も推進することが有益です。自動化により、ヒューマンエラーの削減、業務効率化による人材の有効活用が可能となり、現状の業務品質を維持しながら、業務時間の削減と業務量の平準化を実現できます。
さらに、デジタル化は場所や時間に縛られない柔軟な働き方であるテレワークの導入を促進します。テレワークは、従業員のワークライフバランス向上に繋がり、企業の魅力度向上による人材確保、ひいては社会的課題になっている人材不足の解消にも貢献します。

Appendix:クラウド製品導入のポイント

クラウド製品を導入するにあたって、以下のポイントを意識してみましょう。

  • 業務棚卸の実施
    業務の中で、引継ぎに時間を要したり、過度に工数がかかったりするものは、業務が属人化している可能性が高いと考えられます。これらの業務を洗い出し、システム化やデータ連携を見直すことで属人化を解消できれば、業務時間の短縮と標準化が期待できます。
  • 業務・ルールの見直し
    従来の独自スプレッドシート運用では、細かな変更が積み重なり、計算ロジックや業務手順が複雑化・ブラックボックス化していることが少なくありません。クラウド製品導入の際は、パッケージの機能に合わせて業務やルールを見直す必要があります。その際、過去の財務データとの比較可能性や会計監査への影響を十分に考慮し、数値への影響を最小限に抑えるような変更案を慎重に検討することが重要です。

3.組織役割の変化と価値創出:経営への貢献

集約されたデータをどのように活用し、企業価値向上に繋げるかを検討しましょう。デジタル技術を駆使し、経営・事業部門への情報提供を強化することで、経理・財務部門は従来の業務効率化にとどまらず、データに基づいた洞察を提供し、経営判断を積極的に支援する戦略的パートナーへと進化します。

  • 不確実性の高い時代における情報提供機能
    変化が激しい現代において、タイムリーな情報提供は企業の競争力に直結します。データ分析基盤を強固に構築し、精度の高い経営分析レポートの作成や将来予測を行うことで、経営判断を強力にサポートできる体制を目指します。
  • 財務数値と非財務数値、ビジネス実態を関連付けた分析
    財務データと非財務データを統合的に分析し、多角的な視点からビジネスの実態を可視化します。過去の分析にとどまらず、得られた洞察をもとに将来の戦略的な打ち手を提案できる組織へと変革します。この変革を実現するためには、高度なデータ分析スキルに加え、深いビジネス理解と効果的なコミュニケーション能力が不可欠となります。

さいごに

経理・財務部門のDXは、CFOが主導し、戦略的に推進することで、企業価値向上に貢献します。本稿で解説した3つのステップを踏まえ、経理・財務部門を企業の成長エンジンへと変革させましょう。

この記事を書いた人

2005年 有限責任監査法人トーマツ入所。現東証プライム上場企業をはじめ、幅広い業種・規模の企業に対する法定監査業務、内部統制監査制度の導入支援業務、IFRS導入支援業務に従事。2017年より部長職。経理財務部門における生産性向上を実現するAccounting Tech®Solution事業を推進し、2020年 Strategy & Operations事業部 事業部長に就任。上場企業向けに、経営管理体制構築支援、経理財務部門における生産性向上の支援、PMI(Post Merger Integration)プロジェクトの支援、経理BPOサービスなど、多くの案件を手がけるほか、専門誌の執筆やセミナー講師を多数実施。

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